8th floor of MKK Building / MKKビル8階
日本最大の服飾系卸売問屋街である日本橋横山町に建つ老舗卸店舗の上層階を、服飾のデザイン、生産、卸売、教育が集まるコモンズに転用するプロジェクトである。
ファッションの流通を手掛けるクライアントである「LOGS」は、川上から川下まで様々なプレイヤーがマーケットを介して商品を取引していたこれまでの流通の在り方に対して、クリエイティブとコミュニティが一体化することによりマーケットを介さないやり取りが増えていくと考えていた。この計画ではその実践の場の構築を求められた。LOGSに加えて、ファッションクリエーションの学校「coconogacco」、ファッションデザイン集団「Synflux」を中心に、学びから創作、イベント、ビジネスまで、ファッションにまつわる多様な活動が内外とのコラボレーションを伴って展開する。
当初はファッションクリエイターが集うシェアスペースが想像されたが、コロナ禍で人が集まること自体に対する疑義が瞬間的に生まれたことから、フリースペースと名付けた中央の余白空間にLOGS、coconogacco、Synfluxの3者が面する明快な空間構成へと収斂していった。フリースペースはLOGSの扱う段ボールやハンガーラックで溢れたり、coconogaccoの生徒たちの創作活動で溢れたり衣服の撮影をしたり、Synfluxの機材で衣服を製作したりといった多様な活動のあふれ出しを許容する余白である。
このように流動的で現時点ですべてが想定できるわけではない使われ方に対し、それらを許容し長くクリエーションの拠点として活用される場とするために、インテリアデザインもまた使われ方、読み取り方に冗長性を持たせた部分の集合体として計画した。
タスク/アンビエントを行き来する昇降式ペンダントライト、木口をモヘアで仕上げ着座時の足に優しい置床、扉裏に貼られたウレタンフォームが座面にもなる掘りごたつのような床下収納、下部をフェルトで仕上げ着座の際の背もたれにもなる框引戸、ポリカーボネートで寒冷紗をサンドイッチし見えを調節する建具、現しの軽量鉄骨下地を部分的に養生した上で吹付塗装した壁、眺望と最低限の日射遮蔽をぎりぎり両立するスパッタリングオーガンジーのカーテンetc.
また本計画ではcoconogaccoを主宰する山縣良和氏の世界観を「白い空間」として提示することを求められたため、意味を剥奪し全てをニュートラルにしてしまう抽象的な白に対して、具象的な白の可能性を提示している。具象的な白とは、素材の持つ白がある厚みを持っていること(全波長の光を反射する素材の表層がある種の厚みを持っていること)、白さに人の行為が付随したり振る舞いを喚起すること、塗られた白ははげるものであることを認めていることだと考えている。